2026.10.05社員ブログ

72時間・・・・

 本日もアイボンドブログをご覧いただきまして誠に有り難うございます。

 10月に入りました。秋晴れのなか、旅をするには絶好の季節です。10月5日は時刻表記念日ですが、皆様はご存じだったでしょうか。1894年10月5日、日本で初めての本格的な全国時刻表となる「汽車汽船旅行案内」が刊行されています。駅名・発車時刻・運賃を網羅し、沿線の案内や紀行文まで収録した画期的な出版物でした。発行を主導したのは、山口県萩市須佐出身の実業家・手塚猛昌です。イギリスの時刻表を参考にしつつ、恩師である福沢諭吉の勧めを受け、この事業を成し遂げています。鉄道網が急速に拡張されていた明治中期において、旅行者はこの一冊を手にすることで、旅の計画を容易に立てることがでるようになりました。手塚はこの功績から時刻表の父と呼ばれ、山陰本線須佐駅前には、「時刻表の父 手塚猛昌顕彰之碑」が建立されています。

 次も時間に関係するお話ですが、こちらは生命にかかわるものとなり、深刻な問題です。「災害発生から72時間が生死の分かれ目」、日本ではこのフレーズをよく見聞きします。この72時間という考え方は基本的には日本で強く定着したもので、世界共通の原則というわけではありません。72時間が広く知られるようになった背景には、阪神・淡路大震災の経験則があります。発災後、時間の経過とともに生存率は低下し、統計的な傾向から、72時間の壁といった言い回しが広まることになりました。それ以来、行政文書や防災訓練、マスコミ報道、さらには家庭向けの備蓄ガイド、YouTubeなどの動画解説に至るまで、72時間という数字が繰り返し使われています。

 ここで重要なのは、72時間という数値は単なる傾向を示す便宜的な区切りの指標であって、科学的に確定した人間の生存限界を意味する数値ではないということです。この理解が欠けたままで72時間だけが強調されると、現場で本来おこなわれるべき状況評価が省略され、数値が人間の判断を代行してしまうことになりかねません。

 72時間を超えると人間は生きられないという明確な医学的エビデンスは存在せず、人が水を摂取せずに生きられる時間には大きな幅があり、気温、湿度、体格、年齢、持病、負傷の有無によって結果は大きく変わっていきます。実際のところ、医療・災害医学の分野では、何時間で生存可能性が消えるといった断定はなされていません。阪神・淡路大震災で示されたのは、あくまでも時間が経過するほど発見される生存者の割合が下がるという統計的傾向です。72時間で線を引けるという科学的証明ではありません。

 救助活動において危険なのは、思考を数値に委ねてしまうことであり、数値は判断を助けるための道具にすぎず、判断そのものになってはいけません。東日本大震災では発災から9日後(200時間超)に瓦礫下から生存救出された事例があります。また、海外の大地震をみると、100時間を超えて生存救助された事例は決して珍しいわけではなく、例えば、2023年のトルコ・シリア地震では12日(約296時間)後の生存救助がおこなわれました。生存の可否を分けたのは時間ではなく、要救助者の置かれた状況だったのでしょう。

 数値は共有しやすく、説明しやすいものです。しかし、わかりやすさは必ずしも正しさではありません。従うべきはその現場の状況です。これは救助活動のみならず、企業の事業活動でも同様であり、弊社でも数値に依存しすぎることなく、状況を見極める判断力の向上に努めて参ります。

友達にシェア

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア
  • LINEでシェア
  • はてなでシェア
  • ピンタレストでシェア